主上も先を楽しみにしてらっしゃる事だし、もう少しお話して差し上げよう。
 景麒は思い直し、そのまま物語る事にした。

「誰も使っていないはずのその部屋に、何故か赤ん坊の揺り篭が置いてある……その不気味な光景に、兵士は全身の毛が逆立つのを感じました。そして次の瞬間突然揺り篭が激しく前後に揺れだし、兵士の心臓は早鐘を打ち始めました。そして……」

 景麒がそこまで語ったまさにその瞬間を狙い済ましたかのように、突然何かが倒れるような大きな音が広い室内に響き渡った。と同時に隣に座って静かに物語を聴いていた陽子に突然しがみつかれ、景麒は二重の意味で驚いた。

 雷鳴はますます激しく鳴り響き、昼だというのに室内は黄昏時のように薄暗い。

「な、な……何なんだ、今の音、は……」
 しっかりと景麒の腕にしがみつきながら、震える声で陽子は聞く。
「御簾が落ちた音ですよ。窓が完全には閉まっていなかったようですね。この嵐ですから、隙間からの風が強いのでしょう。今閉めてまいります」

 そう言って立ち上がりかけるが、しっかりと主にしがみつかれて身動きが取れない。

「主上、少しここでお待ち下さいませんか。戸締りをして参りますから」
 だが陽子はふるふると頭を振るばかりで一向に放そうとしない。

「……いい」
「は?」
 囁くような声が聞き取れず、景麒は聞き返す。

「……だから、戸締りなんかいいから、ここに居てくれ」
「もしかして、恐いのですか?」
「恐くないっ!」

 力一杯叫ぶ陽子だったが、次の瞬間またしても物が倒れるような大きな音が鳴り響き、陽子は小さく悲鳴を上げて更に強く景麒にしがみつく。

「ただの隙間風ですよ、主上。やはり戸締りを……」
 しかし陽子はきつく景麒の胸に額を押し当ててしがみついたままだ。主の温もりを直に感じ、微かに動悸が早くなるのを頭の片隅で意識しつつ、景麒はどうしたものかと考える。

「……では、物語の続きを致しましょうか?」
「それは、また後でで……いい」
 その言葉に景麒は更に考える。
「……では、政務がありますので、そろそろ下がらせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「――だから行っちゃ駄目だって言ってるだろうっ!」
 ほとんど悲鳴のような声で言われ、景麒は恐れ多くも主を可愛いと思ってしまう。

 またしても隙間からの風がかなりの重さのはずの置物を吹き飛ばし、その鈍く響く音に陽子の肩が微かに震える。

 かなり躊躇してからそっと主の肩を抱くと、安心したように強張っていた身体の力を抜く。その温もりに幸せを感じながら、たまにはこんな時間もいい、と景麒は思った。


03/04/26

よく考えたら設定がおかしいですが、その辺は話の都合上あえて……という事で。
見ての通り、これが一番いいルートです。
ちなみにこの怪談話は私が適当に考えながら書いたものなので色々あやふやです。
これ以上分岐すると私が混乱するので、この位で……

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