「陽子の陰謀〜クリスマス編」



「サンタさん、今年は何をくれるんだろう…」
 突然の陽子の言葉に、景麒は眉を顰める。以前延麒に聞いた事があったので、それがどういうものかは、おぼろげながら知っていた。
 空想の産物、のはずである。

「景麒、サンタクロースって知ってるか?」
「ええ、まあ……延台輔から伺ったことが」

「お前の知ってるサンタってどんな人物なんだ?」
「クリスマスの夜に、子供達の枕元に贈り物を置いていってくれる老人でしょう?」
 空想の産物ですが、と心の中で付け加える。

「そうそう。慶に来て初めてのクリスマスだから、楽しみだな、何くれるのか」
 空想の産物のはずである。首を捻りつつも景麒はおそるおそる聞いてみる。

「ですが……贈り物を置いていくのは子供達に対してだけなのではないのですか?」
 いきなり否定するのは危険なので、一先ず遠まわしに景麒は訊ねる。
「何言ってるんだ。私はまだ未成年、つまり子供だ。数え年でも十八になってない」
「さようでございますか……しかし蓬莱は遠すぎますので、ここまで来るのは難しいかと……」

 陽子が本気なのか判断がつかないので、景麒としても当たり障りのない返事をするしかない。
「大丈夫、サンタさんは信じる子供の所には、必ず来てくれるんだ。さっそく手紙を書いておかなきゃ!」
 じゃあな景麒、と言い残して陽子は自室へと戻って行った。

 あまりに自然にサンタを信じている陽子の様子に、景麒は疑問を抱く。
 自分が聞いた話とは大分違う。想像の産物ではなかったのか?
 いくら主上といえど、最近まで蓬莱で育った方である。
 五百年前の常識とは違うのかもしれない。
 まさか……延麒の言った事の方が嘘で、サンタなるものは実在の人物なのだろうか。だとしたら、こちらでいう神か天仙の様な存在なのだろう。しかしいくら神でも、こちらの世界までは来られないかもしれない。そうなったら、さぞ主上はがっかりなさるだろう……
 しばし考えた後、景麒はある決心をした。


 クリスマス前夜。

 景麒はこちらの常識で考えると、恐ろしく珍妙な格好をしていた。真っ赤な上下の服を着て、付け髭までしている。今日は陽子が何をサンタに願ったのか探る為、深夜居室を調べるつもりであった。
 どうせ寝ている間にやるのだからどんな格好でもよさそうなものだが、あいにく景麒は完璧主義者だった。
 班渠に飾り物の角までつけ、特に必要もないのに後に従わせる。

 足音を忍ばせて陽子の豪華な寝所に入ると、すぐに目当てのものが見つかる。鉢に植えられた樅の木に、大きな靴下がかけられ、その中にサンタへの手紙が入っていた。
 景麒は慎重にその手紙を広げる。

『サンタさんへ
 サンタさん、今年のプレゼントは、次にあげるものが欲しい。

1.クリスマスからお正月にかけて、景麒が小言を言わない事。
2.      〃        景麒が溜息をつかない事。
3.      〃        景麒が下界への視察に文句を言わない事。
4.      〃        景麒が私の服装に文句を言わない事。
5.      〃        景麒が毎日お菓子を私にくれて一緒に食べる事。
 陽子』

 景麒はしばし無言で固まる。
 サンタとは、こういったものを叶えてくれる存在なのだろうか……?
 もっと具体的に物を置いていくものだと思っていたのだが。
 しかし、これが主上の望みなら叶えるしかあるまい。
 どうやらサンタとやらも、さすがにこちらにまでは来られないようである。
 よし、と決心すると、景麒は手紙をそっと元に戻し自室へと戻っていった。

 後ろで陽子が薄目を開けてにやりと笑っていたことなど、景麒はもちろん知る由もない。

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02/12/22


クリスマスなので、とりあえずクリスマスネタ。

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