「罠〜浩瀚編」


※浩瀚×陽子です。



 慶東国冢宰は頭から盛大に水を被り、全身ずぶ濡れになった状態でその場に立っていた。
 その原因は例によって例の如く、この国の女王である陽子であった。

「どうしたんだ浩瀚、その格好は」
 自らが仕掛けた罠にかかり、企み通りずぶ濡れ状態の浩瀚を満足そうに眺めながら陽子はのたまった。
 実に満足そうな陽子をしばし眺めていた浩瀚だったが、何を思ったのか唐突に陽子を腕の中に絡め取る。

「何するんだ、私まで濡れちゃったじゃないか」
 予想通り怒りの焦点がずれている陽子に浩瀚は軽く声を立てて笑う。
「そうですね、濡れてしまいましたね。このままではお風邪を召されます」
 白々しい台詞に腕の中でやや呆然としていた陽子だったが、次の瞬間これ以上ない程慌てる事となる。浩瀚が唐突に陽子の帯紐に手をかけた為だ。

「おい、何を……」
「お風邪を召されては大変です。すぐにお召しかえを」
 至極真面目腐った表情でそれだけ言うと、陽子の返事も待たずにさっさと帯紐を解き始める。

「ちょ、ちょっと待て……!」
 慌てて身を離そうとするが、気にした風もなくさも当然のように浩瀚は続ける。
「……分かった、私が悪かった! 私が悪戯して仕掛けたんだ、謝るってば!」
「いえ、お気になさらずに。今は主上の御身体が心配です」
「私まで濡れたのは浩瀚のせいじゃないか……」
 自分がしでかした悪戯も忘れ、陽子は恨めしそうに文句を言う。
「私は少しも気にしてはおりませんよ。どんな罠かとひやひや致しましたが、この程度なら問題ございません」
 うっかりその言葉を聞き流しそうになった陽子だが、ある疑問に気付く。

「ちょっと待て。という事は、最初から罠があるって分かってて引っかかったのか?」
「いけませんか?」
「いや、いけないとかそういう問題じゃ……なんでわざわざ避けないで引っかかろうとするんだ」
 浩瀚は澄ました顔で答える。

「主上なら」
 そう言いながら陽子の背に回した腕に軽く力を込め、更に強く抱き寄せる。
「ご自分の仕掛けた罠の行方を最後まで見ようとするでしょう? その間主上は確実に、私だけを見ていて下さるのですから、喜んで罠にかかりに参ります」
 思いもよらない理由に、陽子は軽く目を見開く。

「ですから」
 浩瀚はにっこりと極上の笑みを浮かべ、そのまま驚いた表情のままの陽子の唇に軽く口付ける。

「今日はこれで許して差し上げます」
 頬を染めたまま呆然としている陽子から、ようやく浩瀚は腕を離した。
「私は衣を改め次第すぐに参ります故。主上もお早くお召しかえを」

 陽子は浩瀚の姿が完全に見えなくなるまで、真っ赤になってその場に立ち尽くしていた。


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03/03/08



初の浩瀚×陽子でした。
ちょっとだけ直してこっそりと復活しました。
景麒編もひっそりとあります……

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